林業の事業転換をデザインする

date:2025.03.04

林業の事業転換をデザインする

企業のありたい姿を言語化するための提案

株式会社堀木材 佐藤知博さん×株式会社HAB&Co.平山 高光さん

デザイン経営キャンプとは、大分都市広域圏※の中小企業とクリエイターが協同で取り組む、短期集中型のワークショップです。9月から1月にかけて、企業とクリエイターがともにデザイン経営を学び、講師の指導のもとにプランを策定しました。今回は、株式会社 堀木材 佐藤知博さんと株式会社HAB&Co.平山高光さんによるビジネスプランをその背景とともにご紹介します。

執筆  アドバイザー 井上龍貴

企業とクリエイターの出会い

竹田市荻町の株式会社 堀木材は、森林の伐採から木材市場への出荷をおこなう素材生産業を中心に、災害木の処理や育林事業も手がけています。「年輪100年経営」を理念とし、持続可能な林業を目指しつつ、薪の生産・販売にも取り組み、地域の環境保全と雇用創出に寄与しています。

今回、これまでの事業に対して新たな価値を生み出し、変革を進めていくために、デザイン経営を導入したいという強い思いから、事業変革の責任を担う佐藤さんは、この取り組みが企業全体の成長や競争力向上に繋がると感じて、参加を決意されました。

担当する平山さんは、株式会社 HAB&Co.でディレクション業務に従事しています。

普段からクライアントの声に耳を傾けて、プロジェクトの全体像を把握しながら、細部にまで気を配る姿勢を大切にしており、クライアントとの信頼関係の構築に長けています。

今回は、林業というこれまで向き合ったことのない分野の内容であったため、丁寧なヒアリングに加え、市場調査を実施し、客観的かつ膨大なデータを元に課題を分析していきました。

森のきこりから林業総合サービスへの転換

林業業界は現在、収益性の低下や競争激化といった市場環境の変化に直面しており、固定費の上昇による経営の圧迫が続いています。さらに、施業面積が狭く、管理対象が広範囲に分散していることで、移動や作業の効率が悪化し、生産性が向上しづらい状況です。

業界としても大きな課題となっている、従業員の高齢化が進むなか、技能の継承が十分におこなわれておらず、堀木材でも次世代を担う人材の確保も困難を極めています。

これらの課題が複合的に絡み合い、林業の持続可能性や地域経済への貢献が危ぶまれる深刻な事態となっています。

このように、さまざまな要素が絡む課題に対して佐藤さんは、ワンストップでの林業を目指し「森のきこりから林業総合サービスへの転換」が必要であると提唱していました。そこで、今回は「売上の低下」と「従業員の高齢化」をテーマに据え、平山さんが課題や施策を言語化したロードマップ制作を提案することにしました。

具体的な施策の提案

林業総合サービスを提供するために、まず小規模山林の集積サービスを核とすることが提案されました。このサービスは、専門家や行政との連携を強化した地域循環の創出や、施業面積の拡大・運営コストの削減などにより、事業全体の利益率向上を目指すという内容でした。

この取組では、3年でワントップサービスを完成させることを目標に、まずは協議会設立を実施し、地域住民から山林の運用を任せてもらえる信頼性の高い企業への発展を目指すとともに、行政との協力により手続きの簡素化や一元管理を進めます。

また、5ha単位での林班増加を目標に、持続可能な社会の実現に向けた運用を開始します。さらに、社員ファーストの方針に基づき人員増強を図り、地域資源を活かしたコミュニティづくりや専門家ネットワークの活用を進めるほか、契約者には観光商品や特産品を提供することで地域貢献と事業価値の向上を両立させることを目標にしています。

最終プレゼンテーションでのコメント (抜粋要約)

◯提案に関するアドバイス
自社分析としては、よくできていたが、竹田地区などのエリアとして分析がなかったのでそこの部分を分析してほしい。

Co2の買取りなども長期目線で考慮してみてはどうか。

社会課題が入口になっているのは良かったが、キャッシュフローの部分をもっと詰めていく必要がある。(審査員:吉岡)

中山間地域に対してサービスとして提供していくという認識であれば、そのサービス費用についての情報を詰めていけると良いと思った。

ビジネスとしての視野が狭かったので、サービスを横展開する前提でビジネスモデルを再考する必要がある。

他の農林水産事業者にも同様の課題はあるので、他業種への横展開もしていけるようなプラットフォームになっていけると良いと思った。(審査員:たなか)

最終的に目指している目的地が見えていないので、企業としてのビジョンの解像度を上げていく必要があると思う。

一企業としての主観で計画を作っているが、もっと俯瞰して業界全体を巻き込んだビジネスモデルを考えられると尚良いと思う。

林業のみの売上を上げていくのか、副業的なピボットしている事業を増やして伸ばしていくのかを判断していく必要があるので、やることをやらないことを取捨選択することが大事。(審査員:山田)

課題の多さやその重要性の高さから、どんなことに取り組んで、その先にどんなビジョンを描くのかという、とてもスケールの大きなテーマの提案でした。

今回の取組から、ビジネス的な視野としてクリエイターや別の事業者の視点を借りることで、当事者には気付くことのできない新たな道が開けていく兆しを見つけることができたと思います。

既存の事業を新しい事業へと転換するためには、たくさんの困難に立ち向かうことが必要になると思いますが、中長期にわたる、よきビジネスパートナーとなることを願っています。

 

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