大分県に安心安全な暮らしを提供する会社になるために
date:2025.03.13

褒められる、認められる、しっかり実感を得られる環境を整えるための提案
鬼塚電気工事株式会社 種木悠二さん・仲田祐基さん × 今冨工芸 いまとみくにたけさん
デザイン経営キャンプとは、大分都市広域圏※の中小企業とクリエイターが協同で取り組む、短期集中型のワークショップです。9月から1月にかけて、企業とクリエイターがともにデザイン経営を学び、講師の指導のもとにプランを策定しました。今回は、鬼塚電気工事株式会社 種木悠二さん・仲田祐基さんと今冨工芸 いまとみくにたけさんによるビジネスプランをその背景とともにご紹介します。
執筆 アドバイザー 竹尾真由美
企業とクリエイターの出会い
大分市の鬼塚電気工事株式会社は、今年で創立70年目を迎える電気工事会社です。電気設備工事、通信設備工事、管・空調工事(グループ会社)、IT部門(ネットワーク構築、ソフトウェア開発)などの事業をおこなっています。『ZEB』(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)仕様の新社屋の建設や、地域の防災につながるプロジェクトをクリエイターやアーティストと取り組むなど、社会活動にも注力しています。
今冨工芸のいまとみさんは、別府市で竹工芸作家です。短大でデザインを学び、卒業後は時計のデザインや企業のキャンペーンサイトの制作・運営に携わってきました。自分自身の手でものづくりをすることに興味をもち、2021年より大分県立竹工芸訓練センターに入校。第26回全国竹芸展で新人賞を受賞しています。
今回、『デザイン経営キャンプ」に参加したのは、鬼塚電気工事ハート事業部の広報担当の種木悠二さん・仲田祐基さんです。ハート事業部で、Webや映像制作のディレクションを行うかたらわら、会社の広報班にも所属しています。
同社が2025年に70周年を迎えるにあたり、「鬼塚の姿」を改めて捉え直し、それを内外に浸透させるために必要なことを外部の視点も取り入れながら考えたいと思い、デザイン経営キャンプに参加しました。
協働したクリエイターのいまとみさんは、個人でのデザイナー経験はありませんでしたが、これまでの経験を活かして企業と協働し、竹芸作家でありデザイナーとして自立することを目指しています。
さまざまな取組をしている鬼塚電気工事について、1度の打ち合わせで全容を把握するのは難しいため、事業の公式スケジュールとは別にヒアリングを数回実施しました。
企業の分析をもとに提案を検討する
ヒアリングをすると鬼塚電気工事では、社長である尾野文俊社長を中心に、自社の課題をすでに詳細に分析していることがわかりました。社員の「働きやすさ」については、社宅の整備やエルダー制度 (教育係の先輩社員とペアで動く) といった仕組みや制度を整え、解決に向けて動きが進んでいました。一方で、制度だけでは満たすことができない「働きがい」の部分についても、企業として改善の余地があると分析していました。
また、工事現場の仕事はいわゆる「3K」の仕事です。人口減少もあいまって電気関係の学校を卒業する人や、そこから新入社員となってくれる人材の確保には苦戦することが予想されていました。そのため、企業としての強みや魅力などを可視化し、社内外に向けて、どのような会社なのか伝えていく必要性があると考えていました。
いまとみさんはこうした分析を社長や2人から聞いて、内部の働きがいの強化と新たな人材確保について提案することにしました。
具体的な施策の提案
いまとみさんがまず提案したのは、社内外へ発信するイメージを統一するために鬼塚電気のテーマを設定することでした。そこで、防災や環境に配慮した企業としての姿勢から、「大分県に安心安全な暮らしを提供する会社になる」というテーマを提案します。
具体的な施策として、外部向けには、Webサイトに施工事例をマッピングした地図を掲載することと、リアルイベントの開催を提案しました。70年の間に、県内でどれほどの工事をおこなってきたのか、県内に住む人にとって身近な施設や建物の施工事例が多数あることを可視化するためです。イベントは、日頃、電気工事と接点がない人とつながるために、県内の学生に電気事業者の取組を知ってもらう社会見学や、地域の方を対象とした環境配慮型社屋の見学会などを想定しています。
もう1つの課題、企業の内部向けの対策として提案したのは、Webサイトに掲載している工事施工実績のコンテンツを充実させることです。現在は「工事実績」として、建物の写真と概要説明のみとなっているところを、担当者のインタビューやクライアントが鬼塚電気工事を選んだ理由なども加え、詳細に掲載していくというものです。いまとみさんは「担当した社員が誰なのか明確になることで、仕事への責任感や誇りが生まれ、自身が鬼塚電気工事の一員であるという実感をもつことができる」と説明しました。
さらに、企業全体の中では、現在の広報活動を強化し、メディアの取材招聘や、SNSの活用などのより効果的なものを引き続きおこなうことも重要という考え方を伝えました。
最終プレゼンテーションでのコメント (抜粋要約)
◯鬼塚電気のメインの顧客は土木業や工務店。B to Bに向けた顧客満足度の向上やPRも検討してみるとよいのではないか。(審査員:吉岡)
◯働きがいの強化という課題において、Webサイトの内容の充実という施策は間接的であると感じる。より直接的な防止策を検討してみるとよい。(審査員:山田)

今回の協同では、あらかじめ企業が分析した課題を起点に議論を展開していきました。しかし、デザイン経営においてはクリエイターならではの視点で課題の本質を追求することも肝要です。企業とクリエイターが互いにもう一歩踏み込んで議論することで、クリエイターの視点が活きた企業独自のプランを生み出すことができるでしょう。これからも経験を重ね、企業とクリエイターの関係構築や提案がより良くなっていくことを期待しています。