大分市中心部で10周年を迎える商業施設が、原点回帰するための新規事業
date:2025.03.13

企業とクリエイターのチームアップによって生まれた提案
株式会社JR大分シティ是永哲平さん・大西元気さん × アブラヤサルハチ 有延明乘さん・河口 敬一郎さん
デザイン経営キャンプとは、大分都市広域圏※の中小企業とクリエイターが協同で取り組む、短期集中型のワークショップです。9月から1月にかけて、企業とクリエイターがともにデザイン経営を学び、講師の指導のもとにプランを策定しました。今回は、株式会社JR大分シティ 是永哲平さん・大西元気さんとアブラヤサルハチ 有延明乘さん・河口 敬一郎さんによるビジネスプランをその背景とともにご紹介します。
執筆 アドバイザー 竹尾真由美
企業とクリエイターの出会い
株式会社JR大分シティは、JR大分駅の複合商業施設「アミュプラザおおいた」を運営する、JR九州グループの商業不動産会社です。2015年4月に開業し、約230店舗のショップ、屋上庭園「シティ屋上ひろば」、天然温泉「シティスパてんくう」、ホテルなども備えています。社員は48名おり、その商業施設のテナントを誘致、イベントの企画・運営、施設の貸し出し、大分市中心部の地元の商店街や行政と連携してセールやイルミネーションといったにぎわいイベントにも取り組んでいます。
今回は、JR大分シティを代表して、テナントリーシングを担う営業部営業企画グループ兼サービスESグループの是永哲平さんと、施設管理を担当する施設運営部 建築・設備グループの大西元気さんの2人がデザイン経営キャンプに参加しました。
同社と協働した「アブラヤサルハチ」は、別府を拠点とするデザイナーの有延明乘さんと、地域活性化事業に携わってきた河口 敬一郎さんによるクリエイティブユニットです。有延さんはファンファーレグラフィクス代表として、ポスターやエディトリアル、企業のロゴマーク、ホームページなど幅広くグラフィックデザインを手がけています。
河口さんは、株式会社クリオシティおおいた代表。「ゆのくにクルーザー」のレンタル事業や別府でユニークなイベントの企画などをしています。かつては、プロレスラーとして活動しながら、別府フリーマガジン『eyan (いーやん)』編集長も務めていた異色の経歴の持ち主です。
飛躍と実現性のあいだの模索
キャンプ初日から、企業における課題設定は比較的明確でした。アミュプラザおおいたは、顧客の大部分が大分市や別府市を占めています。将来的には人口減少による顧客の減少が見込まれるなか、広域集客をいかにおこなってくのかが課題でした。また、顧客単価の高いファミリー層の集客、滞在時間の短さ、シティ屋上ひろばなど未利用地の有効活用も課題でした。さらに、2025年3月に10周年の記念プロジェクトも検討したいと考えていました。
JR大分シティとアブラヤサルハチの4名はまず、現状について情報共有をしながら、大分市の中心地を担う商業施設として、別府や湯布院のようにインバウンド需要なども広域集客として取り込むべきなのか? と議論しました。
そのなかで、「『総合的なまちづくり』の先駆けとなる駅ビル」「心ゆたかなライフスタイルを創造、提案し大分都心部の賑わいづくり、 魅力的なまちづくりに貢献する」というJR大分シティのそもそもの理念に立ち返り、方向性と施策を検討していくことにしました。
企業側からは現状の数字や過去の実績などの参考情報が、クリエイター側からは幅広い提案が共有され、そこからさらに実現可能な手法や方法についても議論や検討をおこないました。「飲みニケーション」によるチームアップで、継続して活発なやりとりが重ねられました。

具体的な施策の提案
アミュプラザでは年間通じてさまざまなイベントを実施しており、子どもたちのステージや参加型のイベントは広域からの来場も見込め、滞在時間も長い傾向にあります。そこで、大分県の食や伝統・文化を親子や観光客が楽しく体験できるワークショップを開催することで、大分の文化を伝えながら、より広い地域から訪れてもらい、滞在時間を伸ばすことができないかと考えました。また、開催する会場は、アミュプラザおおいたの課題の1つである「未利用地」とすることで課題を包括的に解消する方向性を提示しました。
ワークショップの内容は、ごまだし作り、柚子胡椒作りなど、大分で受け継がれる郷土文化から、いま大分で注目の店舗によるスイーツ、ものづくりなど。ワークショップのノウハウがある県内の事業者が出店し、1回2時間程度を想定しました。出店事業者は来場者から料金を受け取り、JR大分シティへの出店料は低価格に抑えます。会場では、県内各地の観光ポスターやパンフレットなども配布することも加えました。
イベントのネーミング「駅スポOITA」やロゴも提案があり、より具体的な展開イメージが示されました。ちなみに、「駅スポOITA」には、駅、エキストラスポット (未利用地)、エキスポなど、今回のプロジェクトにまつわるさまざまなイメージが込められています。
最終プレゼンテーションでは、JRのネットワークを活かした告知方法や、運営のタイムスケジュール、集客目標についても説明を加え、事業の実現性が高いこともアピール。この取組を継続することで、アミュプラザおおいたのプレゼンスや顧客満足度を上げること、地元に貢献する「地域創生駅ビル」としての実績やノウハウが蓄積し、将来的に「九州クロスカルチャー駅スポ (EXPO)」として、九州各地で同様の取組を広げていくビジョンもあることを審査員らに説明しました。

最終プレゼンテーションでのコメント (抜粋要約)
・集客力のあるレストランや催事をもってくることを「シャワー効果」というが、今回の場合は、どれくらいその効果があるのか。現在のワークショップの企画そのもので、どれくらいの人を呼べるのか検証が必要。 (審査員:たなか)
・特にアミュは今年10周年なのでエキスポと聞くと大きな事をするのだろうと期待するが、今回提案されたワークショップの内容とではギャップがあるように感じる。1Fやイベントスペースでは日々企画があるなかで、この事業の位置付けやこれ自体を知ってもらうような取り組みが必要ではないか。(審査員:山田)
課題は、多くの商業施設が抱える課題でもあり、企業としても、「次の10年を考える」という大きなテーマ。しかも、わずか5ヶ月間で、ヒアリング、リサーチ、アイデア出し、ブラッシュアップ、提案資料作成、社内の決済プロセスまで加味してまとめあげていく作業は、とても厳しい条件だったはずです。ですが、チーム内のコミュニケーションしやすい空気をいち早くつくれたことによって、早い段階でプランのかたちが見えてきました。一方で、メンバーそれぞれに、さまざまな知見や場数があるからこそ、現実性と飛躍とのバランスをどこにするのか苦慮したのは、講評にもある通りです。ですが、この事業の終わりが、対話の終わりではありません。今回の事業で、考える土台づくりやきっかけを得ることもできました。今後も継続して検討していただき、より良いプランとして実現していくことを期待しています。