8月10日『デザイン経営基礎講座』開催レポート

date:2023.09.13

8月10日『デザイン経営基礎講座』開催レポート

8月10日にJ:COMホルトホール大分にて、山田 遊さん (バイヤー、株式会社 メソッド 代表取締役)を講師にお迎えし、『デザイン経営基礎講座』を開催しました。

山田さんは、フリーランスのバイヤーというめずらしい肩書きで活動されています。バイヤーとしての経験を軸に、国立新美術館のミュージアムショップ『スーベニアフロムトーキョー』など数多くのショップの立ちあげや、オリジナル商品の企画・プロデュース、金属加工の産地・新潟県燕三条を一躍有名にしたオープンファクトリーイベント『燕三条 工場の祭典』の全体監修や、国内外で日本のものづくりと産地を紹介する展覧会のディレクション、国賓に贈呈する記念品の選定など、多種多様な「もの」にまつわる仕事を展開してきました。また、『グッドデザイン賞』『東京ビジネスデザインアワード』など、各種コンペティンションの審査員や講義・講演など、多方面で活躍されています。

 

国立新美術館のミュージアムショップ『スーベニアフロムトーキョー』

 

そもそもデザイン経営とは?

はじめに、山田さんはデザイン経営の定義や、そこにまつわる「デザイン」「イノベーション」「ブランド」など、わかるようでわからない言葉を噛み砕いて解説しました。なかでもデザイン経営をわかりやすく定義したものとして『デザインにぴんとこないビジネスパーソンのための“デザイン経営”ハンドブック』(特許庁:2020年) と『経営とデザインの幸せな関係』(中川 淳・日経BP社:2020年)の一部を読みあげ、次のようにまとめました。

「世の中には、データ化できることとできないことがあります。定量とは数字化できること。つまりデータです。定性はそれ以外の、データで追えないことです。今はVUCAと言われるように、不確実な時代です。インターネットの登場以降、世の中の変化が加速化し、データだけでは先読みができない時代になっています。こんな時代だからこそ、感性的な価値など、定性の力も取り入れていこうということです。そこで大事なのは、定量=経営、定性=デザインと捉え、企業とデザイナーがお互い理解しあうよう努力していくことです」

『デザインにぴんとこないビジネスパーソンのための“デザイン経営”ハンドブック』

『経営とデザインの幸せな関係』

 

実例から学ぶ、ヒット商品誕生の舞台裏

これらを踏まえ、山田さんの関わった事例を1つご紹介いただきました。

佐賀県の『鶴屋』は丸房露を看板商品とする老舗菓子店です。この事例では、ロゴや商品そのものには手を加えずに、新商品として『丸房露のためのアイスクリーム』を作り、売上が1.5倍増したと言います。

このような大きな成果を生んだ協働プロセスの第一歩は、意外にも「決算書を読み込むこと」でした。

 

『丸房露のためのアイスクリーム』(佐賀県・鶴屋)

 

「僕は、企業と関わるときはいつも決算書を3~5期分読み込むことにしています。そうすることで、問題がどこにあるのか見えてくるんです」と山田さん。『鶴屋』の場合は、まず売上目標が設定されていないということが課題として見えてきました。

そこで予算を設定すると、達成目標ができたことで売場のモチベーションが上がり、毎週予算を達成するようになったそうです。さらに、顧客リストを整理してDMを出す、店舗のPOPやディスプレイを見直す、イベントに出店しショップカードを配るなど、今ある資産を活用することで改善できることから着手していったそうです。

そこから、ようやく新商品の企画に着手します。

『鶴屋』は370年以上続く老舗です。それをまず「この企業は『温故知新の南蛮菓子の老舗』である」と定義したそうです。

「丸房露もアイスクリームも、そもそもは海外から伝わってきたものです。老舗というのは、そういう新しいものを取り入れて作り続けてきた結果なんです。南蛮菓子と考えれば、老舗の新商品がアイスクリームであっても不自然ではない。それに、歴史ある老舗といえども、和菓子・洋菓子のジャンルでは競合が多くいますが、南蛮菓子と定義するとライバルがグッと減ります。そこで、丸房露にあう新商品としてアイスクリームをPRしたところ、大きな反響をいただいたというわけです」と、言葉で定義することで、事業や企業活動を裏付けすることの大事さを伝えました。

定量を踏まえて定性を発揮

実は山田さんは、当初からアイスクリームを作ろうというアイデアを持っていたと言います。しかし、それをすぐには提案せずに、数ヶ月間定量と向き合いながら、定性を裏付けするデータを収集していたのだと言います。

「鶴屋の商品の売上比率を見ると、丸房露が約半数を占めていました。それを見て、丸房露を超えるヒット商品を作るべきではないと考えました。それよりも、既存のヒット商品である丸房露がもっと売れるような、または丸房露との合わせ買いで客単価が上がるような方策を考えることが必要だと考えたのです」

そこでようやく山田さんの定性が発揮されます。

「丸房露って、乳製品との相性がいいんですよね。また、夏場は売上が下がってしまうことが弱みです。このような考えに、これまでの定量の作業も踏まえて、丸房露にあうアイスクリームを開発しようというアイデアを導き出したんです」

 

 

最初にインスピレーションを得ていたとしても、十分なデータがないままにそれを経営者に伝えてしまうと、突飛なアイデアだと思われてしまいがちです。今回のケースでは、データを揃えて分析したうえで、筋道を立てて「だからアイスクリームを作るべきだ」と伝えたことで、経営者も賛同しやすい提案になったようです。

山田さんは、3Cや4P、SWOTなど、経営コンサルティングにおける既存のフレームを使って分析しながら、経営改善をアドバイスすることもあると言います。これについて山田さんは「そこまで踏み込む必要があるのかという意見もあるかと思いますが、デザイン経営としては、経営にとってデザインがいいインパクトを提供しなければならないので、このようなプロセスで裏付けしながらデザイン提案につなげていくことは有効であると考えます」と述べました。

最後に山田さんは、今デザイン経営が必要とされている理由について次のように述べました。

「企業活動はもちろん、社会は定量と定性の両方があって成り立っています。経済や経営において、定量化できるものを把握することは重要です。しかしそれだけでは激しく変動する予測不可能な社会に適応できないので、今こそ定性の力が必要とされている。それが今この時代にデザイン経営という言葉が叫ばれている理由なんだと思います」 

 

まとめ

デザイン経営を簡潔にいうならば「経営とデザインが双方を理解する、もしくは理解するよう努めて事業をおこなうこと」です。山田さんは、資料と実例をもとに「データだけでは予測できない不確実な時代だからこそ、定量と定性の両輪を持ったチームで事業計画を立てることが成功の確率を高める」と伝えてくださいました。

しかし、多くの企業にとっては社内にデザイン部を置くことは困難です。そこで、『鶴屋』のように外部のデザイナーやクリエイターなどとパートナーシップを組み、定性の力を持った第3者の視点を加えるという手法が、取り組みやすいデザイン経営の形と言えるのではないでしょうか。

おおいたデザイン・エイド 2023では、企業とデザイナーによる5チームが『デザイン経営キャンプ』でデザイン経営に取り組みます。ここからどんなプランが生まれるのか、そのプロセスもこれから本サイトにて紹介していきます。ぜひ今後のご参考にされてください。

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