県内唯一のかいわれ大根農家の経営をデザインする

date:2024.03.26

県内唯一のかいわれ大根農家の経営をデザインする

パーパスを通底させたデザインで、企業の姿勢やメッセージを伝える

有限会社 植木農園 植木 喜久生さん × 杉本国雄さん (INSIGN)

 

デザイン経営キャンプとは、大分都市広域圏※の中小企業とクリエイターが協同で取り組む、短期集中型のワークショップです。8月から12月にかけて、企業とクリエイターがともにデザイン経営を学び、講師の指導のもとにプランを策定しました。今回は、有限会社 植木農園と杉本国雄さん (INSIGN) によるビジネスプランをその背景とともにご紹介します。

 

企業とクリエイターの出会い

大分市の植木農園は、大葉栽培、かいわれ大根栽培、大葉加工品製造の3本の柱を軸とした50年続く老舗農家です。なかでもかいわれ大根の生産農家としては大分県唯一で、1日1万パックを生産し、九州・関西に出荷しています。

今回「デザイン経営キャンプ」に参加した植木 喜久生常務が担当するのは、かいわれ大根をはじめとするスプラウト部門。安価で身近なかいわれ大根ですが、彩りや盛りつけのアクセントとして扱われることが多く、その魅力を知ってもらうためにデザイン経営を導入したいというのが参加の動機でした。

杉本国雄さんは、工業用製品などのプロダクトデザインの豊富なキャリアを持ちながら、ブランディングやパッケージデザインなども手がけるデザイナーです。

今回は、農業というこれまでにない分野と向き合うために、市場に出回っている青果のパッケージをくまなく調査したそうです。さらに丁寧なヒアリングに加え、農園にも足を運び、植木農園の強みを実感しながら課題を分析していきました。

強みを活かし、課題の解決につなぐ

植木農園の敷地内には温泉があります。およそ40年前から、この温泉を農産物の栽培に活用していましたが、これまでそれを発信はしていませんでした。「おんせん県おおいた」唯一のかいわれ大根農家であること、しかも温泉で栽培していることは、必ず強みになると杉本さんは直感しました。

一方、ヒアリングではかいわれ大根のイメージ向上や、積極的に食卓に取り入れる文化がないことなどが課題として浮き彫りになります。

ヒアリングを進めるうちに、スプラウト部門のみでなく農園全体を俯瞰する必要性を感じ、杉本さんは植木農園のパーパスの策定に着手します。そこでキーワードになったのは、主力商品であるかいわれ大根の形。まるでハートのような葉の形状から着想し、「葉を届け、心を繋ぎ、笑顔を作る」というパーパスをイラストとともに提案。

そこから植木さんの「スプラウトを広めたい」という意思を汲んだ「スプラウトの認知拡大と文化の醸成」というビジョンを掲げます。さらに、温泉を強みに「癒し」と「新鮮さ」を掛けあわせた新しい価値を創造することをコンセプトに設定し、「ロゴマークの作成」「パッケージデザイン」「新商品の開発」の3つの具体的な施策の提案につなげました。

 

具体的な施策の提案

まず、パーパスをもとに、 植木農園の新しいロゴマークを考案しました。パーパスを踏まえ、親しみやすさに加え、安全・安心の品質を約束する柔らかさと実直さが融合したデザインを提案。名刺や商品ラベルへの展開を想定し、複数の配色パターンを提案しました。

かいわれ大根のパッケージ案としては、商品名の改変もあわせて提案。温泉を活用して栽培していることが伝わるよう、商品名を『温泉かいわれ』とし、湯けむりと葉を想起させるハート型を組み合わせたグラフィックを印象的に配置することで、パーパスが通底したものとなりました。その他のスプラウトについても、「温泉」を商品名に含めることと、湯けむりのグラフィックを共通のモチーフとし、それぞれの商品のイメージに合ったパッケージを提案しました。

さらに、「スプラウト文化の醸成」のための施策としては、新たなスプラウトの開発や、栽培キット、シーズニングなど、従来の事業を発展させることで実現可能なアイデアの提案がありました。

最終プレゼンテーションでのコメント (抜粋要約)

◯農林水産の分野にデザイナーが関与する難しさについて

市場に出回っている青果のパッケージは、資材メーカーのインハウスデザイナーがデザインしたものが主流で、デザイナーがデザインしたものはあまり見受けられなかった。ここに参入するためには、デザイナーとしての力をしっかり発揮し、差別化しなければと感じた。(杉本)

◯デザイナーとの対話による企業の変化について

当初は「スプラウト部門」という農園の一部門のみの相談だったが、結果として農園全体を見直し、ロゴやパーパスから中長期的な計画まで一緒に考ることができてよかった。(植木)

 

杉本さんの提案は、企業の強みを直感的に掴みながら、企業や業界の課題を見据え、将来的に目指す姿に向かうための持続可能な活力を企業にもたらす提案でした。すべてのデザインにパーパスを通底させることで、一過性の目新しさではなく、企業の姿勢やメッセージを込めたデザインとして結実させました。

時間をかけて対話を重ねた成果としてのデザイン提案であったことが伝わるプレゼンテーションでした。

現在、植木農園では杉本さんの提案によるパッケージに移行する準備を進めているとのこと。中長期にわたる、よきビジネスパートナーとなることを願っています。

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