カルチュアカフェの実現に向けた中期経営計画
date:2024.03.26
企業とデザイナーの相互理解のもとに成り立つ、経営に踏み込んだデザイン提案
株式会社 テイクファイブ 菊田真起さん × 佐藤あやのさん (ありがとうデザイン)
デザイン経営キャンプとは、大分都市広域圏※の中小企業とクリエイターが協同で取り組む、短期集中型のワークショップです。8月から12月にかけて、企業とクリエイターがともにデザイン経営を学び、講師の指導のもとにプランを策定しました。今回は、株式会社 テイクファイブ 菊田真起さんと佐藤あやのさん (ありがとうデザイン) によるビジネスプランをその背景とともにご紹介します。
企業とクリエイターの出会い
音響・照明・映像の企画制作・ホール管理事業などで知られる株式会社 テイクファイブは、2022年に西大分のかんたん港園にスタジオとカフェが併設するビルを建設。食文化やアートの活動・発信の拠点として、エリアを巻き込んださまざまなイベントを企画・運営しています。企画営業部の菊田真起さんは、このカフェ「CAFE NA COSTA」の開業から1年が経過し、経営や運営を見直したいとデザイン経営キャンプに参加しました。
佐藤あやのさんは、ブランド設計士兼デザイナー。デザイン制作はもちろん、ライティングやビジュアル撮影、経営戦略もブランディングのうちと捉え、クライアントの思いを形にするために、領域横断的な提案で伴走するクリエイターです。
菊田さんと佐藤さんは、ワークショップ以外でもミーティングを何度も設け、日々変化するカフェの運営状況を共有しながら、これからすべきことについて話し合いを重ねました。佐藤さんは独自のヒアリングシートを用意し、さまざまな角度から菊田さんに質問を投げかけることで、目指す姿を明確化し、現状とのギャップをどう埋めていくのかを探っていきました。
中期経営計画のビジョンとコンセプトを抽出
佐藤さんは、CAFE NA COSTAの課題を「ビジョン」「人材」「スペック」の3点に絞ります。ビジョンや計画が不透明であること、人材が定着しないこと、設備が不十分であることなど、1年間運営してきたからこそ見えてきた課題を解決するために、定性・定量の両面を分析しながら中期経営計画を定めました。
主に定性面でキーワードになったのは、運営母体である株式会社 テイクファイブの企業理念「社業を通じて文化発展に寄与する」です。また、老舗企業として培ってきたイベントプロデュース力や技術力も必ず強みになると佐藤さんは確信しました。
これらを前提条件として、CAFE NA COSTAのためのビジョンとコンセプトを導き出すと同時に、社内コミュニケーションを円滑化する仕組づくりとサービス内容の見直しを提案しました。
具体的な施策の提案
中期経営計画を明確にするために、定性面からは「かんたん港園地域の文化の担い手になる」というビジョンを掲げます。そして、定量分析をもとに具体的な売上目標を設定するとともに、「口と目と耳の3感で、文化を味わえるカルチュアカフェ」をコンセプトに、音楽やアートとカフェを掛けあわせたイベントの開催について提案しました。
コミュニケーションの円滑化やサービス内容の最適化では、売上の内訳や原価・労務などの管理状況を細かく分析し、メニューの見直しや、商品・サービスの開発、人材育成の仕組づくりなどを提案をします。これらに関連するツールは、すべて波をモチーフにしたデザインで統一されていました。海辺に面した立地や、かつて海の向こうから運ばれてきた文化、運営母体の強みである音 (=音波) など、CAFE NA COSTAを形作るさまざまな要素を「波」というモチーフで表現し、ブランドイメージを社内外に浸透させる提案でした。
最終プレゼンテーションでのコメント (抜粋要約)
◯労務・人材育成のための具体的な施策について
現在、店舗と本社の間の情報共有の円滑化を図るため、オンラインなども活用し、スタッフ全員が参加できる定期ミーティングを計画している。スタッフのモチベーション向上のため、2023年11月には時給を上げた。今後はスタッフの評価制度も整備していきたい。(佐藤)
佐藤さんの提案は、経営にしっかり踏み込んだものでした。まずはデータをしっかり読み込み、現状を見直すことで改善できることと、新たな仕組やツールの導入によって改善すべきことに分け、必要な部分にデザインを施すという提案でした。経営の視点とデザインの視点の両方から課題を分析したうえでの具体策の提案は、経営における有用性を確信させる力強さがありました。
デザイン経営においては、デザイナーは経営を理解し、経営者はデザインを理解することが不可欠です。菊田さんと佐藤さんの協働は、相互の深い理解と信頼を基盤に、デザインと経営が両輪となった、安定感のある事業構想を生みました。